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トップページ原爆の絵ブツブツと泡を噴き出した少年の死体。燃える工場

原爆の絵

識別コード SG-0528
絵の内容 ブツブツと泡を噴き出した少年の死体。燃える工場
作者名(カナ) 渡慶次 恒徳(トケシ コウトク)
作者名(英語) Koutoku Tokeshi
当時の年齢 29歳
寄贈者名 竹中 茂子
種別 新市民が描いた原爆の絵(その他)
情景日時 1945/8/7(時刻)夜
情景場所 横川から観音
情景場所旧町名
情景場所現町名
爆心地からの距離
ブロック別
作者による説明 **絵中
思い出、3
防空壕一つは満員で横になることができない。横になるため、隣の死んだ人の入っている防空壕に入って寝る。一匹の藪蚊が二人の間を行ったり来たりする。馬でも牛でも人間でもコロリと死んでおるのにこんな小さな藪蚊が元気とは不気味である。気持が悪くなり外に出る。昼間休んだ時、誰もおらないのに話声が聞こえる。それは足元の子供の口からブツブツと泡が出る音でした。「戦争はいけんよ。」と言っているように聞こえました。

**書籍
恒徳が昼飯を食べたあと、道端に座って休憩していたら、すぐ近くで人がブツブツ喋る小さな声に気が付いた。だれもいないのに、おかしいなと思っていたら、恒徳の目の前に仰向けに裸で死んでいる七歳ぐらいの少年の口から、ブツブツと泡が噴き出していた。死体の中で発生するガスが噴き出る音と、近くを流れる川の音が混ざって、少年は何人かの人間たちとおしゃべりしているように聞こえた。恒徳には少年が、家族の名を呼んでいるように思え、哀れでしかたなかった。
(中略)
燎原の青い火
日が暮れた。防空壕で救護隊員三十五人が寝ようとするのだが、壕の中は十畳足らずの広さしかないので、横にならず座って眠るしか仕方ない。二つある壕のうち、もう一つの壕には、人が一人死んでいた。死体のある壕にはだれも近寄らないので、恒徳はその壕に入って横になった。ヤブ蚊が静まりかえった壕の中を羽音をたてて飛んでいた。
『人間も馬も牛も、みんな死んでしまったのに、ヤブ蚊は生き残っている』
そう思うと、死体と恒徳の間を行き来しているヤブ蚊の存在が不気味になった。とても眠れるどころではない。壕から外に出た。風がゆるやかに吹いていた。壕のすぐ横の川っぷちで横たわっている少年の死体は、まだしゃべっていた。
少年の死体の向こうの暗闇で、工場らしい建物が燃えていた。甲立から広島に出てきて、たびたび通ったことがある観音町の缶詰工場だろうと推測できた。観音工場から缶詰が燃えてオレンジ色の光の尾を曳いて弾け飛んだ。箒で掃かれたような銀河で埋まった夜空に、乱れ飛ぶ缶詰の花火が美しかった。
缶詰工場の一角を除く闇の中には、弱々しい青い光がトロトロと燃えていた。倒れた家の下敷になって燃えた死者たちが、それぞれ居場所を家族に告げようとでもするように、青い火が小さく燃やし続けているのだろうか。恒徳は茫然と立ち尽くして、燎原の青い火を長い間見つめていた。
宇多滋樹『豚の神さまー渡慶次恒徳の半生』(宇多出版企画 1999年、pp.104-106)
サイズ(cm) 122×180
展示の説明文 少年の死体
作 渡慶次恒徳 当時29歳
寄贈 竹中茂子
誰もおらないのに話声が聞こえる。
それは足元の子供の口からブツブツと泡が出る音でした。
「戦争はいけんよ。」と言ってるように聞こえました。

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